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11.262024
「横浜ゴム茨城工場と日本野鳥の会茨城県」支部と企業の連携が紹介されました
企業との連携を通じてさらに支部活動を発展し、生物多様性を進めているネイチャーポジティブの事例として、横浜ゴム茨城工場と日本野鳥の会茨城県の取り組みが、日本野鳥の会が発行する探鳥会スタッフ通信に掲載されました。
↓記事詳細を以下に掲載します。ぜひご覧下さい。↓
~探鳥会スタッフ通信2024年11月号より抜粋~
◆支部と企業の連携でつくるネイチャーポジティブ
「横浜ゴム茨城工場と日本野鳥の会茨城県」の事例
企業による生物多様性への取り組みが増えてきている中、日本野鳥の会の支部と企業の連携の事例が広がってきています。ここでは支部が企業に協力して生物多様性に取り組んでいる事例をご紹介したいと思います。
今回ご紹介するのは、横浜ゴムと日本野鳥の会茨城県(以下、茨城県)との取り組みについてです。少し前になりますが、今年の5月14日に横浜ゴム茨城工場にお邪魔し、工場内とその周辺で年に4回実施されている野鳥のモニタリング調査に参加させていただきました。その模様をご報告いたします。
■横浜ゴム茨城工場での生物多様性■
横浜ゴムは1917年創業のゴム製品を製造・販売している企業です。自動車のタイヤのほか、高圧ホース、コンベアベルトなどの工業製品、ゴルフクラブなどのスポーツ用品まで幅広くゴム製品の製造を手掛けています。天然ゴムを調達し加工して製品を作る過程で、国内外の各生産工場では河川や地下水からの水を利用しています。そのため、横浜ゴムは、工場の稼働自体が周辺の自然環境に負荷をかけているという認識を持っています。
そこで横浜ゴムでは、国内外17箇所(うち国内11箇所)の各生産工場の生物多様性の保全に取り組んで、生き物と共生した工場の在り方を模索してきました。2010年に生物多様性保全ガイドラインを策定し、事業継続のための生物多様性保全への取り組みがスタートしました。
川の水の取水と排水を行っていることから、河川やため池の水生生物を対象としたモニタリング調査を中心に植生調査や野鳥の生息調査、昆虫調査を行っており、その結果を地域のステークホルダーに報告しています。
茨城工場のある小美玉(おみたま)市は、県内でも山や川、湖もあり鳥を見るにはよい場所で、工場に面した園部川周辺には湧水地がたくさんあり田んぼが広がり、毎年サシバが繁殖する良好な場所です。
工場と工場に隣接する園部(そのべ)川の周辺部では、工場の社員の皆さんによって年4回のモニタリング調査が実施されています。調査のテーマは、水質、水生生物、野鳥、植物、小動物(昆虫)などで、このうち野鳥に関しては日本野鳥の会茨城県が、その他植生や昆虫調査には地元の小美玉生物の会が協力しています。
茨城工場では、サシバと共生する工場を目指して、モニタリング調査に加えて、サシバの採餌環境の整備として、止まり木の設置やビオトープの管理を行っています。茨城工場の活動は横浜ゴムの中では後発でしたが、これらの取り組みが評価され2023年に環境省の「自然共生サイト」に認定されました。
■茨城工場での定例モニタリング調査に参加させていただきました■
茨城県では、2013年から年4回のモニタリング調査に協力しています。工場内を回るコースと園部川周辺のコースに分かれ、社員の方々の調査をサポートするという内容です。
今回は、5月14日に行われたモニタリング調査に参加させていただきました。調査に参加していた社員の方はおよそ20名。これを工場内の野鳥調査班と園部川の野鳥調査班、園部川の水生生物調査班と水質調査班に分かれて、それぞれの班ごとにコースを設定して調査を行いました。私たちは、工場内の野鳥調査班に参加しました。
フィールドとしての工場は、1周約1.5kmで、この中で生き物が豊かなポイントは、工場の南東部に園部川の支流の一つ、谷戸頭になる湿地lエリアと、東部に広がっているゴルフ場とゴルフ場に隣接する林のエリアです。南東部の湿地には、林と田んぼ、ビオトープがあり、ヨシ原ではオオヨシキリが鳴いていました。また、7月のモニタリング調査の時には、ヒクイナが初めて観察されたそうです。さらに、サシバの採餌場にもなっており、工場の敷地内に設置された人工の止まり木にはよくサシバが止まっている姿を見かけるそうです。
敷地の東部にあるゴルフ場周辺は、モズの餌場になっており、他にもホオジロ、アオジなどの草原性の野鳥の他、シメ、ヤマガラが多く観察されています。敷地の中心部にある工場の建屋周辺では、イソヒヨドリが建物の隙間に出入りしていました。その他、広い空き地や敷地に沿って植樹された並木沿いでは、ハクセキレイ、スズメ、ハシボソガラス、ツバメ、メジロが飛び交っていました。
■座談会「企業とNGOの連携とは」■
モニタリング調査が終了した後、横浜ゴムの皆さんと茨城県の皆さんにお話を聞くことができました。(文中では個人名ではなく団体名で表記してあります。)
お話を伺った方:
日本野鳥の会茨城県 池野さん、内田さん
横浜ゴム CSR企画室 CSR企画グループ 旭さん
茨城工場 工場管理課課長 上村さん、
工場管理課 環境管理事務局 斉藤さん、富田さん
聞き手:財団普及室 箱田
Q. 日本野鳥の会茨城県との連携のきっかけは?
A. エコプロダクツ展という環境をテーマとした展示会に参加した時に、出展していた(公財)日本野鳥の会の方に声をかけたことでした。その後財団本部から、日本野鳥の会茨城県を紹介していただきました。(横浜ゴム)
Q. どのようなやり方で調査を行っているのですか?
A. 小美玉生物の会との打ち合わせや現地視察や、住民説明会など計5回の打ち合わせを経てこの活動が始まりました。最初の活動日は、2014年5月20日でした。
茨城県が「鳥」を担当し、小美玉生物の会が「昆虫」と「植物」「魚」を担当しています。他に「水質検査」は横浜ゴムが担当されています。年3回(5月7月10月)の調査の他、地域住民の方々に向けた調査結果の報告会を1回開催していました。(コロナにより現在は一時的に休止しています。)2016年からは、冬季の冬鳥調査が加わり、調査の回数は年4回となっています。
調査の方法は、決められたコースを歩きながら出現した鳥を記録していくというもので、10年間この方法で行ってきました。茨城県は、鳥の識別や記録の仕方などを社員の皆さんに指導しています。記録したデータは、昼食をはさんで2時間くらいでその日のうちに発表用の資料にまとめられています。
(日本野鳥の会茨城県)
Q. なぜ工場の敷地の他に隣接する園部川を調査地に含めているのですか?
A. 園部川も調査地に入れている理由は、工場が園部川水系の地下水を取水し、園部川に排水しているからです。工場の敷地周辺の生物多様性を考えるとき最も重要なのは園部川の環境を損なわないようにすることだと思います。
(横浜ゴム)
Q. 調査に参加する社員の方たちの反応はいかがですか?
A. 社員の7割は地元採用なので、工場周辺の自然については子どものころから接していて、当たり前の風景として受け取っています。ただし、具体的な生き物を観察した経験のある人は少ないと思います。みなさん調査に参加することで地域の自然に目が向くようになってきたとおっしゃっています。私も環境の担当になって、自然に目が向くようになり、プライベートでも気が付くと自然に目が向くようになったのは大きな変化です。退職後に小美玉生物の会に入会した社員もいます。定年後のOBの活動の選択肢になってきているのではと感じます。この活動を通して社員が地元の自然に目を向けるきっかけになっているのはうれしいですね。(横浜ゴム)
Q. 10年間も調査活動を長続きさせるコツは?
A. モニタリング調査って地味でマンネリ化しやすいので、データを集めてその結果をどう生かすのかを考えておく必要があると思います。それでもここまで来るのに紆余曲折あって、例えば、わかりやすくマンネリ化しないように、出現した鳥ごとに点数を決めて、希少な鳥であればあるほど高得点となるような評価方法を考えたこともありました。
結局途中からサシバを指標種にしたことで、社員にとってわかりやすく、調査の意味づけがしやすくなったと思います。(日本野鳥の会茨城県)
Q. NGOとして企業と連携する意味はどのような所にあると思いますか?
A. コロナ前に、地元向けの説明会(住民懇談会)をしていたのですが、いろいろな人が集まり、話し合う場に自分も参加してみると横浜ゴムがいかに真剣に生物多様性に取り組んでいるかを読み取ることができました。そして地域もそれに応じて協力的だったのが印象的でした。その中で自分たちの立ち位置もよく理解できました。支部にとっては、企業を含めた地域の自然環境の保全に関わることができているということに大きな意義があるのではないかと思います。(日本野鳥の会茨城県)
Q. 企業としてNGOと連携する意義はどのような所にあると思いますか?
A. 企業がNGOとコラボする意味は、地域社会に対して「手前みそではない」ということを示すというところにあると思います。自分たちの取り組みを自分たちだけで評価するのではなく、NGOと協働することで外の視点が入り客観性が生まれて、その客観性が地域社会への説得力につながっていくのではないかと思います。(横浜ゴム)
Q. 両者の今後の展望について何かあれば教えてください。
A. COP15以降、企業の事業活動と生物多様性はますます切り離せないものになりました。引き続き企業活動の基盤としての生物多様性保全の活動をすすめ、事業継続のために生物多様性保全をすすめていきたいと思います。三重工場では、行っていた出前授業に参加した小学校の子どもがその後成長し、入社して社員になったという例があります。横浜ゴムの工場は、3Kのイメージ(きたない、きつい、危険)が根強いが、生物多様性の活動で実績を残していければ工場のイメージを変えられると思っています。(横浜ゴム)
A. 茨城県としては横浜ゴムとの連携は、鳥好きの人ではなく一般の人との重要な接点になっています。できればそこから茨城県に入会してくれる人が出てくるといいなと思っています。今まではあまり入会の働きかけができていませんでしたが、今後は茨城県のイベント情報なども社員の方に呼び掛けてもらって、積極的に働きかけていきたいと思います。
サシバを通して、環境の大切さや複雑さを理解してもらい、社員からその家族に伝わるといいなと思っています。小美玉はサシバが多い地域なので、工場の従業員とそのOBがみんなで地域の希少種を守っていく動きになっていけば素晴らしいと思います。(日本野鳥の会茨城県)
■取材を終えて■
取材を終えて、最も印象的だったのは、横浜ゴムがなぜこれほどまでに真剣に生物多様性に取り組んでいるのかがわかったような気がしたことでした。
河川の水を利用していることから、できる限り自然環境への負荷を小さくする努力を積み重ね、それを地域住民に対して説明しなければならないということが原点にあるという点がとても分かりやすいと思いました。そしてそれを可視化する手法が生物多様性であったのだということがわかりました。
また、社員の方によるモニタリング調査が思わぬ教育効果をもたらしているという点も興味深かったです。調査に参加した社員の方が地域の自然に目を向けるようになってきたことや退社後のOBがNGOで活躍されているお話は大変印象的でした。
支部にとっては、茨城工場の社員260人と継続的に接する機会になっていることに大きな可能性を感じました。サシバをシンボルにしたことで活動のわかりやすさが増し、今後さらに深く社員の皆さんに浸透していくのではないかと思いました。
この取材の後、横浜ゴム三島工場(静岡県)でも野鳥のモニタリング調査を行いたいと打診をいただき、普及室で調整した結果三島工場と沼津支部の連携がこの冬から始まりそうです。企業との連携を通じてさらに支部活動を発展させていってほしいと思いました。
皆さんの支部では企業と連携して生物多様性を進めている事例はありませんか?もしございましたら普及室まで情報をお寄せください。この紙面でご紹介したいと思います。
(普及室 箱田敦只)